相続の手引き⑱ 自筆証書遺言の保管制度
自筆証書遺言は、紙と筆記用具・印鑑があれば作成可能であって(民法968条)、作成者自身が自宅で保管することができます。そのため、作成者が遺言書を紛失してしまったり、作成者の死亡後に発見されなかったり、仮に発見されても偽造・変造・破棄されるおそれがあるため、かかる危険を防止し、確実に公的機関において保管し、相続人が遺言の存在を把握するための必要性が指摘されてきました。
そこで、2020年7月10日に「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(以下、「遺言書保管法」という。)が整備され、自筆証書遺言を遺言書保管所(法務局)で保管する制度が整備されました。
⑴保管期間
遺言書の原本は遺言者の死亡後50年間、遺言書の画像データは遺言者の死亡後150年間法務局において管理されます。
⑵検認の要否
この保管制度を利用する場合には、偽造などおそれがないため、検認(家庭裁判所が提出された遺言書についてその存在および内容を確認する手続。民法1004条1項)は不要です(遺言書保管法11条)。
⑶申請の方法
自筆証書遺言保管の申請は、作成者本人が遺言者の住所もしくは本籍地または遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する法務局に自ら出頭して行う必要があります(遺言書保管法4条1項・3項・6項)。郵送での申請はできません。
そして、遺言書は法務省令で定められた方式に従って作成されたもので無封でなければなりません(遺言書保管法4条2項)。
⑷遺言書保管の有無等の調査方法
相続開始後、関係相続人等(遺言者の相続人、受遺者、遺言執行者等)は、特定の死亡者について遺言書保管事実証明書(遺言書保管ファイルに記録されている事項を証明した書面)の交付を請求することによって遺言書保管の有無を調査することができます(遺言書保管法10条1項)。
また、関係相続人等は、遺言書の原本が保管されている法務局にかかわらず全国の法務局において、遺言書の閲覧(遺言書保管法9条3項)や遺言書に係る画像処理等を証明した書面(遺言書情報証明書)の交付を請求すること(同条1項)により、遺言書の内容を調査することができます。