「会社内部紛争を防止するための非上場会社の株主管理・株主対策」競業取引・利益相反取引・利益供与2-競業取引②-
2 競業取引規制の対象となる取引
会社法356条1項1号は、競業取引規制の対象となる取引について、「取締役が自己又は第三者のために会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき」と定めています。
(1)会社の事業の部類に属する取引
「会社の事業の部類に属する取引」とは、定款所定の目的事業か否かを問わず、会社が実際に行っている取引と目的物(商品・役務の種類)及び市場(地域・流通段階等)が競合する取引をいいます。例えば、製造業を営む会社の場合原材料の購入といった付帯事業は該当しますが(最判昭和24年6月4日民集3巻7号235頁)、金銭の借入れ、従業員の雇用といった補助的行為は含まれません。
また、会社が実際に行う事業と同種の事業であっても地理的に市場が競合しなければ規制対象外と解されていますが、会社が進出を具体的に計画している地域は会社の市場にあたると解されています(山崎製パン事件・東京地判昭和56年3月26日判時1015号27頁)。さらに会社の資金的人材的能力を考慮して、会社が容易に市場を拡大できる地域についても会社の市場と解すべきとの見解もあります。
(2)自己又は第三者のため
「自己又は第三者のため」とは、その名義の如何を問わず、自己又は第三者の計算において行うことを意味し、経済的効果を基準としています。
裁判例では、競合する会社の代表取締役ではないが、株式の多くを所有しているなどして同社の経営を実質的に支配している場合に、事実上の主宰者として、会社法上の競業取引に該当するとしたものがあります(前掲東京地判昭和56年3月26日)。また、過半数の株式を有してなくとも、その他大株主が存在せずに、忠実な者たちを代表取締役、取締役に就任させていた場合に事実上の主宰者と認めた裁判例もあります(大阪高判平成2年7月18日判時1378号113頁)。
このように競業取引に該当するか否かは、形式的な名義ではなく実質的に判断される可能性があるので注意が必要です。
<続く>