「会社内部紛争を防止するための非上場会社の株主管理・株主対策」競業取引・利益相反取引・利益供与3-競業取引③-

3 承認手続き

(1) 重要事実の開示

競業取引を行うためには取締役会または株主総会の承認が必要です。そして、競業取引承認決議の前提となる重要事実の開示においては、取引の相手方、取引の種類、目的物、数量、価格、履行期、取引の期間、取引により得られる利益など、取締役会又は株主総会が承認するか否かを判断できる情報を開示する必要があります。

なお、虚偽の報告をして得た承認は、無効と解される場合があります。

(2)承認決議

取締役会設置会社では競業取引にあたり取締役会承認決議が必要ですが、特別の利害関係を有する取締役は決議に参加できません(会社法369条2項)。

取締役会非設置会社では株主総会決議(普通決議)を要します。特別の利害関係を有する取締役も決議には参加できますが、その議決権の行使により著しく不当な決議がされた場合は、当該議決の取消事由になり得ます(会社法831条1項3号)。

また、取締役には株主の質問に対する説明義務があります(会社法314条)。

(3)取締役会議事録・株主総会議事録

経営陣が株主と対立した際に自らの身を守る重要な証拠となるため、承認決議を得たことについては、取締役会議事録又は株主総会議事録に残しておく必要があります。

(4)取締役会設置会社における取引後の報告

取締役会設置会社の場合、競業取引をした取締役は、競業取引後遅滞なく、当該競業取引についての重要事実を取締役会において報告する必要があります(会社法365条2項)。

(5)代表取締役への就任

取締役が競業取引を行う他社の代表取締役に就任すること自体は競業取引規制には反しません。しかし、代表取締役として競業取引を行うには承認が必要ですので、一般的には、代表取締役に就任する際に、包括的な承認決議をします。この場合に開示されるべき重要事実は、競業他社との関係、競業他社の事業の内容・規模、商品・サービスの内容、取引の規模・範囲等です。

但し、100%子会社といった完全支配関係がある会社の代表取締役に就任した場合には、競業取引規制は及ばないと解されています。100%子会社同士の場合も同様です。

なお、開示した重要事実に大きな変更が生じた場合には改めて包括承認が必要です。

包括承認した場合にも取引後の重要事実の報告をする必要があります。この点、取締役会における業務執行状況の報告(会社法363条3項)に準じて3カ月に一度以上が望ましいとの見解がありますが、実務上は、包括承認の取り直しと併せて取引後の報告を年1回行う例が多いようです。

(6)事後承認の可否

競業取引について承認手続きを経ていなかった場合も、その取引は有効です。

事前承認を怠っていた場合の事後承認の可否については、承認の効力を否定する見解が有力です。しかし、何もしないで放置するよりは責任追及訴訟において有利になる可能性もありますので、事後的であっても承認決議を得るべきです。

<続く>

ページトップへ戻ります