相続の手引き52-持戻しの免除Ⅰ

⑴ 趣旨

被相続人は、特別受益の持戻しに関し、受益の持戻しを免除する意思表示をすることができます(民法903条3項)。

特別受益の持戻しは、共同相続人の衡平を図ることに加え、通常子を平等に扱うと考えられるため持戻しを行うことが被相続人の意思に合致していることが根拠とされています。そこで、被相続人がこれとは異なる意思を有している場合には、被相続人の意思を尊重させる趣旨に出たのが持戻しの免除の制度になります。

⑵ 持戻しの免除の方法

持戻しの免除の意思表示については特別の方式は定められていません。そのため明示の意思表示に限らず黙示の意思表示でもよく、また生前に行うことも遺言により行うこともできます。

被相続人が明示的に持戻しの免除を表明している事案はほとんど考えられませんので、実務上は、遺言の文言や被相続人の生前行為の内容から被相続人の持戻しの免除の意思表示の有無を推認することが多く行われます。黙示の持戻しの免除があったか否かは、①贈与の内容・価額、②贈与がされた動機、③生活関係、④職業・経済状態、⑤他の相続人が受けた贈与の内容等の諸般の事情を総合考慮して、被相続人が相続分とは別枠で贈与をするという意思を有していたか判断されます。

なお、遺贈についての持戻し免除の意思表示については遺言によらなければならないとする見解とそれに限られないとする見解に分かれています。裁判例には、「遺言による特別受益について、遺言でなくとも持戻免除の意思表示の存在を証拠により認定することができるとしても、方式の定められていない生前贈与と異なり、遺言という要式行為が用いられていることからすれば、黙示の持戻免除の意思表示の存在を認定するには、生前贈与の場合に比べて、より明確な持戻免除の意思表示の存在が認められることを要すると解するのが相当である。」と述べるものがあります(大阪高決平成25年7月26日判時2208号60頁)。

⑶ 撤回の可否

一度した持戻しの免除の意思表示は、生前の行為によるものでも遺言によるものでも自由に撤回することができます。被相続人の最終意思を尊重する観点からも、被相続人による撤回を制限する理由はないと考えられます。

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