相続の手引き㊲ 遺留分侵害額請求権の消滅
遺留分侵害請求権は「遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から」1年間で消滅するところ、平成30年改正前民法下における判例は「遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時」の意義について、「遺留分を侵害する贈与の事実及びこれが減殺できるものであることを知った時と解すべき」としています(最二小判昭和57年11月12日民集36巻11号2193頁)。
そして、遺留分権利者が遺贈の無効を主張して1年以上経過してから平成30年改正前民法の遺留分減殺請求をした事案において、判例は、「遺留分減殺請求権を行使しなかったことがもっともと首肯しうる事情が認められない限り、遺贈が減殺できるものであることを知っていたと推認するのが相当である」(前掲最二小判昭和57年11月12日)としています。
そのため、遺留分権利者が、遺留分を侵害する遺贈の無効を主張して遺産分割協議の申入れや調停申立てを行い、明示的な遺留分侵害額請求権の意思表示をしないまま、相続開始及び遺留分を侵害する遺贈を認識してから1年間が経過した場合、遺留分権利者は遺産分割協議の申入れに遺留分侵害請求の意思表示が含まれていると主張することはできないと考えられます。
したがって、仮に遺贈の有効性を争う場合であっても、遺贈が有効である場合に遺留分が侵害される可能性があるのであれば、予備的に遺留分侵害額請求権を行使しておく必要があります。