相続の手引き㊼-代襲相続と特別受益Ⅰ
【事例】 Xには妻A、子B、Cがいる。 Xが死亡する1年前にBが死亡していた。Bには子Dがいる。 Xは10年前に、開業資金の援助として、Bに対して1000万円を贈与していた。 |
上記事例において、代襲相続人であるDはXから直接贈与を受けていませんが、被代襲者であるBがXから1000万円の贈与を受けた事実を考慮する必要はないのでしょうか。
相続人であった者の子が代襲相続人となる場合の特別受益に関する規律については民法上明確に規定されていません。そこで、被代襲者の受益は特別受益の持戻しの対象となるかが問題となります。
この点について、通説では、被代襲者の得た特別受益は持戻しの対象となるものと解されています。代襲相続人は被代襲者と実質上同一の地位にあり、被代襲者の特別受益があれば、その代襲相続人も実質的に利益を受けていると考えられます。また、代襲相続は、代襲相続人が被代襲者の相続資格に代位することを基礎としていますので、代襲者は被代襲者が生存していた場合に置かれていたであろう地位よりも有利な地位に置かれるべきではありません。このような理由から通説は持戻しの対象とすると解しています。
裁判例にも「特別受益の持戻しは共同相続人間の不均衡の調整を図る趣旨の制度であり、代襲相続(民法887条2項)も相続人間の公平の観点から死亡した被代襲者の子らの順位を引き上げる制度であって、代襲相続人に、被代襲者が生存していれば受けることができなかった利益を与える必要はないこと、被代襲者に特別受益がある場合にはその子等である代襲相続人もその利益を享受しているのが通常であること等を考慮すると、被代襲者についての特別受益は、その後に被代襲者が死亡したことによって代襲相続人となった者との関係でも特別受益に当たるというべきである。」と述べるものがあります(福岡高判平成29年5月18日判タ1443号61頁)。
したがって、上記事例では、通説にしたがいますと、Xに対する贈与を相続開始時の価額に換算し、みなし相続財産、具体的相続分を計算することになります。