相続の手引き㊽-代襲相続と特別受益Ⅱ

【事例1】

Xには妻A、子B、Cがいる。

Xが死亡する5年前にBが死亡していた。Bには子Dがいる。

Xが死亡する2年前に、Dは海外留学の準備費用として1000万円をXから生前贈与されていた。

【事例2】

Xには妻A、子B、Cがいる。

Xが死亡する5年前にBが死亡していた。Bには子Dがいる。

Xが死亡する10年前に、Dは海外留学の準備費用として1000万円をXから生前贈与されていた。

⑴ 代襲原因が発生した後に代襲相続人が受益した場合

代襲相続人が、被代襲者の死亡後(代襲原因発生後)に、被相続人から特別受益を受けている場合は、民法903条1項の定める「共同相続人中に、被相続人から・・・贈与を受けた者があるとき」に該当します。そのため、代襲相続人の当該受益については特別受益の持戻しの対象となります。

そうすると、上記事例1では、代襲原因はXが死亡する5年前に生じているところ、その後に代襲相続人であるDがXから生前贈与を受けていますので、Dの受けた生前贈与は持戻しの対象となります。

⑵ 代襲原因が発生する前に代襲相続人が受益した場合

代襲原因発生前の代襲相続人の受益については、見解が分かれているものの、通説は持戻しの対象とはならないと解しています。代襲原因発生前の時点では、代襲相続人は相続人ではなく、生存している被代襲者が相続人であるため、この時点で被相続人から代襲相続人に贈与等があっても、遺産の前渡しの意義を有するものとはいえません。そのため、通説は持戻しの対象外と解しています。

裁判例でも、「代襲相続人について民法903条を適用して特別受益分の持戻を行うのは、当該代襲相続人が代襲により推定相続人となった後に被相続人から直接特別な利益を得た場合に限ると解すべきである」としたものがあります(大分家審昭和49年5月14日家月27巻4号66頁)。また、「相続人でない者が、被相続人から贈与を受けた後に、被代襲者の死亡によって代襲相続人としての地位を取得したとしても、その贈与が実質的には被代襲者に対する遺産の前渡しに当たるなどの特段の事情がない限り、代襲相続人の特別受益には当たらないというべきである」と述べる裁判例もあります(福岡高判平成29年5月18日判タ1443号61頁)。

そうすると、上記事例2は、通説の見解にしたがいますと、DがXから贈与を受けたのは代襲原因が生じる以前のことになりますので、Dの受けた生前贈与は持戻しの対象外となります。

ページトップへ戻ります