相続の手引き㊿ー負担付贈与の特別受益該当性
【事例】 被相続人の相続人は子A、Bである。 甲は生前、Aに対し、自分が亡くなるまでの面倒をみるように頼み、それを条件にAに対して贈与した。Aはその条件を守り、Xの面倒を献身的にみていた。 |
負担付贈与とは、受贈者に一定の債務を負担させることを条件とした贈与のことをいいます(民法553条)。
負担付贈与がされた場合、生計の資本としての贈与に該当するかが問題となります。
負担付贈与であっても、通常の生前贈与と同様に、負担付贈与の趣旨・目的、金額、内容等を考慮し、相続分の前渡しとしての贈与といえるか検討することになり、贈与額が高額になれば特別受益に該当することが多いと考えられます。
ただし、特別受益に該当するとしても、通常の贈与と異なり、債務の負担が条件となっていますので、当該債務の対価といえる部分については特別受益該当性を否定すべきであると解されます。そうすると、条件とされた債務が介護のような非金銭債務である場合、金銭的評価が容易ではありません。
上記事例の介護の場合には、介護に当たってAが支出した費用、介護に要した時間的負担、早期退職など収入減少がある場合は収入の差額等の様々な事情を総合考慮して、金銭的価値に換算することが考えられます。
ただ、被相続人がある相続人に介護を条件に贈与をする場合、通常介護をしてくれることへの感謝を含んでおり、被相続人としては将来の相続において他の共同相続人との衡平のために持ち戻されることを想定していない場合が多いと考えられます。そのため、贈与の内容・価額、贈与がされた動機、被相続人と受贈者である相続人及びその他の相続人との生活関係、相続人及び被相続人の職業・経済状態、他の相続人が受けた贈与の内容・価額等の事情を総合考慮し、被相続人が特定の相続人に対し、相続分以外に財産を相続させる意思を有していたことを推測させる事情があると認められる場合には、黙示の持戻しの免除があったとして持戻しの対象外となる可能性が高いと考えられます。