相続の基礎知識⑫-寄与分及び特別寄与料支払請求-
1 寄与分とは
寄与分とは、被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした相続人がいる場合に、この相続人に特別に与えられる持分割合を意味します(民法904の2)。
法律が定める寄与としては、①被相続人の事業に関する労務の提供、②被相続人の事業に関する財産上の給付、③被相続人の療養看護、④その他の方法(たとえば、被相続人の扶養や財産管理など)、の4つの類型があります。
2 寄与分として評価されるためには
(1)主体
寄与分は、相続人がした寄与に限って認められます。ただし、過去の審判例によれば、相続人の配偶者や子などが寄与行為をした場合は、その寄与が相続人自身の寄与として考慮される可能性はあります。
例えば、東京高裁平成22年9月13日家庭裁判月報63巻6号82頁は、相続人の配偶者が行った被相続人の介護につき、相続人の履行補助者として寄与行為を行ったと認定しました。
(2)特別な寄与であること
寄与分として評価されるためには、当たり前のことを行っただけでは足りず、あくまで特別の行為でなければなりません。なぜなら、子には法律上、親を扶養する義務があり、親を扶養することはいわば当たり前のことだからです。そのため、「特別な寄与」といえるためには、通常の扶養義務を超える行為が必要になります。
具体的には、①相続人がその寄与につき相応の対価・補償を得ている場合、②被相続人との身分関係において通常期待される程度の行為である場合、などは寄与分として評価されません。
(3)相続財産の維持・増加があること
寄与分として評価されるためには、相続人の寄与によって、相続財産が維持されたり、増加したりすることが必要です。したがって、寄与を行ったけれども、結果的に相続財産の維持・増加につながらなかった場合は、その寄与は、寄与分としては評価されません。
3 寄与分の額
寄与分は、寄与の時期、寄与の方法および程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して定められます(民法904の2②)。このように、寄与分は、個々の案件ごとの個別的な事情により変動するものです。
ここで、寄与分の額は、相続財産の価額から遺贈の価額を控除した額を超えることはできません。つまり、遺言で遺産の全部が遺贈されている場合には、寄与分を定めることはできないことになります。このように、寄与分は、遺贈によって簡単に押し退けられてしまうため、非常に弱い権利であるといえるでしょう。
4 寄与分の決め方
寄与分は、基本的には、相続人間の協議で定めることになります。もっとも、相続人間の協議が整わない場合には、家庭裁判所の調停や審判によって定められることになります(民法904の2②)。この点は、遺産分割と同様です。
〔設例〕
被相続人である父は、死亡時に、3,000万円相当の土地建物と、3,000万円の預貯金を有していました。相続人は、長男と次男の2人です。
父は、個人商店を営んでいましたが、父が高齢で病気がちになってからは、長男がほとんど1人で父の店の商売を切り盛りしていました。長男は、父の財産の維持・増加について2,000万円相当の貢献をしたものと評価されます。
このとき、長男と次男の具体的相続分はいくらでしょうか。
民法は、相続人中に特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始時時に有していた相続財産の価額からその者の寄与分を除いたものを相続財産と見做し(みなし相続財産)、法定相続分により算定した相続分に、寄与分を加えた額をその者の相続分とすると定めています(民法904の2)。
具体的相続分=(相続財産-相続人の寄与分の額)×法定相続分+寄与分の額
設例において、相続財産は3,000万円相当の土地建物と3,000万円の預貯金で合計6,000万円、長男の寄与分は2,000万円相当、次男の寄与分はなし、法定相続分は長男、次男2分の1ずつです。長男及び次男の具体的相続分は、以下のとおり、長男4,000万円、次男2,000万円となります。
(1)長男の具体的相続分
{6,000万円(相続財産)-2,000万円(相続人の寄与分の額)}
×1/2(法定相続分)+2,000万円(長男の寄与分の額)
=4,000万円(長男の具体的相続分)
(2)次男の具体的相続分
{6,000万円(相続財産)-2,000万円(相続人の寄与分の額)}
×1/2(法定相続分)=2,000万円(次男の具体的相続分)
5 相続人以外の特別寄与者による特別寄与料の支払請求
特別な寄与にあたる行為を行った被相続人の親族(特別寄与者)は、相続開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)の支払を請求することができます(平成30年改正民法1050①、令和元年7月1日以降に生じた相続)。ただし、親族であっても、相続人、相続の放棄をした者及び相続人の欠格事由(同法891)に該当し又は廃除によってその相続権を失った者は特別寄与者にはなり得ません。
ここで、特別寄与料の支払について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、特別寄与者は、家庭裁判所に対して協議に替わる処分を請求することができます。ただし、特別寄与者が相続開始及び相続人を知ったときから6か月を経過したとき、又は相続開始時から1年を経過したときは、請求することはできません(改正民法1050②)。また、特別の寄与に関する審判事件を本案とする保全処分を行うこともできます(家事事件手続法216の5)。
<続く>