相続の基礎知識⑬-遺留分-
1 遺留分とは
遺留分とは、被相続人の財産のうち最低限相続により取得できる割合を意味します(平成30年改正民法1042)。遺留分が定められた趣旨は、近親者である相続人の生活保障など遺産に対する一定の期待を保護することにあります。
2 遺留分が認められる相続人
遺留分は、その趣旨に鑑み、相続人全員に認められるものではなく、①配偶者、②子、③親などの直系尊属(ただし、子がいない等の場合にのみ相続人となる)に限って認められています。被相続人の兄弟姉妹には、遺留分は認められていません。
また、相続欠格、廃除、相続放棄により相続権を失った者には、遺留分はありません。
子の代襲相続人は、被代襲者である子と同じ遺留分が認められています。
3 遺留分の割合
相続人に認められる遺留分の割合は、以下の表のとおりです。
相続人の範囲 |
遺留分 |
配偶者のみ |
法定相続分の2分の1 |
配偶者と子 |
法定相続分の2分の1ずつ |
配偶者と親などの直系尊属 |
法定相続分の2分の1ずつ |
子のみ |
法定相続分の2分の1 |
親などの直系尊属のみ |
法定相続分の3分の1 |
たとえば、父、母、長男、次男の4人家族のケースで父が他界した場合、父の配偶者である母の法定相続分は2分の1、長男の法定相続分は4分の1、次男の法定相続分は4分の1となります。
そして、各相続人の遺留分は、法定相続分に2分の1を乗じたもの、つまり、母は4分の1、長男、次男は8分の1となります。
その結果、たとえば父が8,000万円の財産を遺して他界した場合は、母の遺留分は8,000万円×4分の1=2,000万円、長男、次男の遺留分は8,000万円×8分の1=1,000万円となります。
4 各自の遺留分の額の算出方法
遺留分権利者の具体的な遺留分の額は、以下のとおり、遺留分の基礎となる被相続人の財産の額に、遺留分を乗じて算定します。
(1)ステップ1(基礎となる財産の算定)
遺留分の基礎となる財産は、①被相続人のプラスの財産に、②被相続人が贈与した価額を加え、③債務の全額を控除することによって算出します。
【基礎となる財産の算定】
①相続開始時の被相続人の財産(遺贈された財産を含む)
+(加算)
②被相続人が贈与した財産の価額(ただし、対象となる贈与は以下のとおり限定的)
-(控除)
③債務の全額
ここで、①相続開始時の被相続人の財産には、遺贈の対象となっている財産も含まれます。
また、②被相続人が、贈与した財産の価額とは、以下のⅠからⅢの場合に限定されます。
Ⅰ.相続人以外の者に対する贈与のうち、相続開始前1年以内に締結した贈与
Ⅱ.遺留分権利者に損害を加えることを知ってなされた贈与
Ⅲ.相続人に対する特別受益に該当する、相続開始前10年以内に行われた贈与
※Ⅲは平成30年改正民法により改められたものであるため、改正民法のうち、遺留分に関する条文の施行日である令和元年7月1日以降に相続が生じた場合(同日以降に被相続人が死亡した場合)に適用されます。
そして、③において控除される債務には、金融機関からの借金といった私人間の取引によって生じた債務だけではなく、税金や罰金などの公的な債務も含まれます。ただし、被相続人が保証人として負っている債務(保証債務といいます)は、裁判例上、特段の事情がない限り控除されません(東京高裁平成8年11月7日判時1637号31頁)。
(2)ステップ2(基礎となる財産に遺留分を乗じる)
ステップ1で求めた基礎となる財産の価額に、各相続人の遺留分を乗じると、各自の遺留分を算定できます。
たとえば、父、母、子の3人家族で、父の基礎となる財産の価額が6,000万円であった場合、母の遺留分、子の遺留分は共に4分の1となります。そして、父の基礎となる財産の価額である6,000万円に各自の遺留分4分の1を乗じた1,500万円が、母、子の遺留分の額になります。
<続く>