相続の基礎知識⑭-遺留分侵害額請求-
1 遺留分侵害額請求とは
遺留分の侵害があった場合は、遺留分侵害額請求権という権利が発生します。
遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が、相続開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年、相続開始時から10年経過したとき、時効により消滅します(平成30年改正民法1048)。
2 遺留分の侵害額の計算
遺留分の侵害額は、以下のとおり、遺留分の額と、相続で取得した財産額に特別受益の贈与及び遺贈を加えたものとの差になります。
遺留分侵害額=①遺留分の額-②相続によって得た財産
-〔③特別受益としての贈与額+④遺贈額〕
[設例]父、母、子の3人家族で、
父、死亡3ヶ月前に愛人に4,000万円を贈与
遺産は6,000万円の財産、4,000万円の借金であった場合。
父が生前に行った愛人への贈与が、母と子の遺留分を侵害するか。
侵害している場合、侵害額はいくらか。
(1)遺留分の額
相続人である母、子の遺留分の額を算定する基礎となる財産の額は、父が遺したプラスの財産である6,000万円から愛人への贈与額である4,000万円を加算し、借金の額である4,000万円を控除した、6,000万円となります。
基礎となる財産6,000万円に、母と子各自の遺留分4分の1を乗じ、①遺留分の額は1,500万円となります。
(2)相続によって得た財産の額
母と子は、相続によって、財産6,000万円と借金4,000万円を、各々法定相続分たる2分の1ずつ取得しました。母と子が②相続によって得た財産の額は、以下のとおり、1,000万円と算定されます。
財産6,000万円×1/2-借金4,000万円×1/2=1,000万円
(3)遺留分侵害額
以上より、母と子は、遺留分額が1,500万円であるにもかかわらず、実際には、相続により1,000万円しか取得していません。そのため、愛人への贈与は、その差額である500万円分の遺留分を侵害していることになります。
したがって、母と子は、愛人への贈与について各自500万円の遺留分減殺請求権を行使することができます。
3 遺留分侵害額請求権の法的性質
遺留分減殺請求権は、平成30年相続法改正により、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求する遺留分侵害額請求権へと効力及び法的性質が変更されました(改正民法1046)。
改正前民法では、遺留分減殺請求権の行使により、遺留分を侵害する贈与や遺贈が遺留分を侵害する限度で当然に効力を失う結果、株式や事業用不動産の共有状態が生じることから、円滑な事業承継に支障が生じていたためです。
例えば、父が兄に経営を継がせるために、自分が経営していた会社の株式、事業用不動産等を全て相続させるとの遺言を残していた場合であっても、遺留分を侵害している場合、改正前民法では、弟が遺留分減殺請求権を行使すれば、その時点で、株式、事業用不動産等が兄と弟の共有状態となってしまいました。改正後民法では、弟は兄に対して遺留分侵害額請求権を行使し、金銭の支払いを請求することになるため、兄は会社の株式、事業用不動産等を全て単独所有したまま、事業を継続することができるのです。
なお、遺留分減殺侵害額請求を受けた受遺者又は受贈者は、上記金銭を直ちに準備できない場合には、裁判所に対し、負担する全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することを求めることができます(同法1047⑤)。
改正民法のうち遺留分侵害額請求権に関する条文の施行日は、令和元年7月1日です。同日以降に生じた相続(被相続人が同日以降に死亡した場合)について、遺留分侵害額請求権が認められます。
<続く>