相続の基礎知識㊲-遺産分割に関する見直しⅣ-
5 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲
遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合、共同相続人は、全員の同意により、処分された財産が遺産分割時に遺産として存在するものとみなすことができるようになります。処分した相続人の同意は不要です(民法906条の2)。
相続開始後に共同相続人の1人が遺産に属する財産を処分した場合、他の共同相続人が不法行為又は不当利得による請求を行ったとしても、その請求は法定相続分の範囲にとどまることから不公平が生じるため、その点を是正するものです。
(例)被相続人=父、相続人=兄、弟、遺産=預金2000万円
特別受益=兄への生前贈与2000万円、
兄が相続開始後、遺産分割前に預金1000万円を処分していた場合
①預金1000万円の処分がなかった場合
・兄の相続分
=(2000万円+2000万円)×1/2-2000万円
=0円
・弟の相続分
=(2000万円+2000万円)×1/2
=2000万円
②旧法による処理
遺産分割時の遺産は、預金1000万円であるから、
・兄の取得分
=1000万円×(0/2000万円)
=0円
ただし、生前贈与2000万円、預金1000万円を取得済み
・弟の取得分
=1000万円×(2000万円/2000万円)
=1000万円
→その後弟が兄に対し、不法行為に基づく損害賠償請求、不当利得返還請求を行い、それが認められたとしても、請求が認められる金額は、兄が相続開始後処分した1000万円のうち、弟の法定相続分たる1/2、すなわち、500万円だけとなります。
そのため、旧法によれば、遺産分割前に預金を引き出した兄が利得する結果となってしまいます。
③改正相続法による処理
処分された預金1000万円についても、遺産分割時に遺産として存在するものとみなすことができます。そのため、弟は、①と同様に預金2000万円を取得します。
兄による1000万円の処分は、全額相続分を超えたものであるから、遺産分割において、兄から弟に対し、代償金1000万円を支払わせることとなります。
<続く>