会社法においては、内容の異なる二以上の種類の株式を発行することが認められており、これを「種類株式」といいます。
種類株式を発行するためには、事前に株主総会特別決議により定款を変更し、各種類株式に応じた一定の事項及び発行可能種類株式総数を定める必要があります。また、種類株式発行会社が種類株式を追加する場合で、他の種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときには、原則として当該種類株主総会特別決議も要します。
頻繁に利用される種類株式の発行方法としては、①募集株式の発行等によって発行する方法と、②発行済株式の一部を種類株式へと内容変更する方法があります。
①募集株式の発行等によって発行する方法は、募集株式の発行等と同様の手続が必要となります。
また、②発行済株式の一部の株式の内容変更する方法は、当該変更対象株式を有する株主と株式会社の合意のほか、変更対象外の株式を有する株主であって、一部の株式の内容変更によって不利益を被る株主全員の同意が必要と解されています。なお、登記実務上は、発行済株式の一部を内容変更する場合には、変更対象外の株式を有する株主が不利益を被るか否かに関わらず、当該株主全員の同意が必須とされていますので注意が必要です。
会社法上、種類株式は9種類用意されており、一定の制限の下、これを組み合わせ、又は条件を付すことなどによって、種類株式の内容をアレンジすることができ、これを上手く利活用することが事業承継や少数株主対策を成功に導く鍵となることもあります。
もっとも種類株式発行会社になるにあたっては、要求される法定手続が多く、その過程や内容に瑕疵が存在した場合には、後にその効力を争われることにもなりかねません。
そのため具体的事案に則した最適な制度を設計し、必要となる各種手続を瑕疵なく履践するためには、種類株式に精通した弁護士に依頼することが必要不可欠といえます。
会社法上、種類株式のうち議決権のコントロールを行うのに役立つ種類株式としては、「議決権制限種類株式」、「拒否権付種類株式」、「役員選解任種類株式」の3種類が挙げられ、これに事業承継にあたって利用されることの多い「取得条項付種類株式」を加えて、以下で説明します。
「議決権制限種類株式」とは、株主総会において議決権を行使することができる事項について他の株式と異なる定めをした内容の種類株式をいいます。
例えば、少数株主に交付する、又は少数株主が保有する株式につき、役員の選解任に係る議決権がない旨定款で定めることで、少数株主が、経営権の根幹となる役員構成について口出しすることができないように、コントロールすることができます。
第○条 甲種類株式には、取締役及び監査役の選任又は解任に係る議決権がない。
他にも、全ての決議事項について議決権を制限することや、議決権行使にあたっての条件を定めることなどもでき、具体的事案に応じた柔軟な制度設計をすることが可能です。
実務上は、議決権行使制限のみを種類株式の内容としてしまうと少数株主の反発を招きかねませんので、種類株式の内容として、議決権制限に加え、優先的に剰余金配当を受ける権利を付与する場合が多いといえます。
なお、公開会社では、議決権制限株式を発行済株式総数の2分の1までしか発行できないとの制約が設けられています。
「拒否権付種類株式」とは、株主総会又は取締役会において決議すべき事項のうち、株主総会決議又は取締役会決議のほか、当該種類株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とすることを内容とする種類株式をいいます。
例えば、株主総会及び取締役会において決議すべき全事項について種類株主総会の決議を要する旨定めることによって、経営陣は当該株主の意向を無視することができなくなり、事実上、拒否権付種類株式を保有する株主があらゆる経営方針を間接的に決定することが可能となります。
また、取締役又は監査役の選解任、代表取締役の選定解職について、種類株主総会の決議を要する旨定めることによって、役員人事を支配することができます。
第○条 当会社の取締役又は監査役の選任及び解任については、株主総会の決議のほか、甲種類株式を有する株主の種類株主総会の決議を要する。
2 当会社の代表取締役の選定及び解職については、取締役会決議のほか、甲種類株式を有する株主の種類株主総会の決議を要する。
このように、拒否権付種類株式を有する株主は、会社に対して非常に大きな影響力を有することになりますので、当該株式は、俗に「黄金株」とも呼ばれています。
「取締役・監査役選任権付種類株式」とは、指名委員会等設置会社ではない非公開会社のみ定めることが可能な種類株式で、その種類株主総会でのみ取締役・監査役の全部または一部の選任決議ができる旨の内容が定められた種類株式をいいます。
例えば、全ての役員の選任につき、役員選任権付種類株式を一株でも発行することで、会社の経営権を支配することができますので、事業承継の場面において、相続人が多数におよび、遺留分の侵害が免れない場合などにおいて、活用することが考えられます。
第○条 甲種類株式の株主は、その種類株主総会において全ての取締役及び監査役を選任する。
「取得条項付種類株式」とは、株式会社がその発行する全部又は一部の株式の内容として当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件として当該株式を取得することができる旨の内容が定められた種類株式をいいます。
この種類株式は、株式分散の予防のために利用することができます。
例えば、取得条項付種類株主の死亡又は従業員の退社等を取得条件とすることで、当該株主の相続人や会社との関係性が希薄な者へと株式が分散してしまうことを避けることができます。また、定款に具体的な取得事由を規定せずに、「会社が別に定める日」と定めることもでき、取得のタイミングを会社の都合に合わせることも可能で、具体的ニーズに応じた柔軟な制度設計に役立ちます。
第○条 当会社は、次の各号に定める取得事由が生じた場合には、当該甲種類株主の株式を取得し、当会社はこれと引換えに、金銭を甲種類株主に交付する。
2 前項の取得と引換えに当会社が甲種類株主に交付する金銭の額は甲種類株式1株あたり●円とする。
非公開会社においては、①剰余金の配当を受ける権利、②残余財産の分配を受ける権利、③株主総会における議決権の3つの権利つき、株主ごとに異なる取扱いを行う旨を定款で定めることができます。これを、「属人的定め」といいます。
株式の属性として権利内容に差異を設ける形ではなく、権利者の属性に基づく定款の定めが認められる点で、種類株式にない柔軟性があります。
もっとも、株主に与える影響が甚大であることから、属人的定めを定款に設けるためには、総株主の半数(頭数)以上で、かつ総株主の議決権の4分の3以上の賛成(株主総会特別特殊決議)が必要とされています。
なお、会社法上、属人的定めも種類株式とみなされ、種類株式に係る各規定が適用されますが、種類株式とは異なり登記は必要ではありませんので、通常、外部にその内容が知られることはありません。
属人的定めの活用方法としては、例えば後継者が保有する株式については1株あたり10議決権とすることで議決権の集中を図ることができ、あるいは後継者以外の者が保有する株式については議決権を制限する代わりに配当額を持株数以上の割合で優遇するなどが考えられます。
属人的定めは、具体的事案に応じた柔軟な定めを設けることができる一方で、手続が厳格に定められており、仮に手続違反が存在する場合には、当該定めが無効とされてしまうリスクもあります。また、極端に特定の株主に有利な定めは、株主平等原則の趣旨に反し、無効となると解されています。そのため、属人的定めを導入するにあたっては、会社法に通暁した弁護士に依頼することが適切です。