遺産分割

遺産分割事件の概要

遺産分割フロー図

遺産分割協議」とは、相続財産をどのように分けるかについて相続人全員で行われる話合いのことをいいます。具体的には、誰が(相続人の範囲)、何を(遺産の範囲)、どのような割合で(具体的相続分)、どのように分けるか(分割方法)を協議でまとめる必要があります。

この協議がまとまらなかった場合には、家庭裁判所に遺産分割調停又は審判を申し立て、解決を図っていくこととなります(上記図参照)。

遺言が存在しない場合や、遺言に含まれていない相続財産がある場合には、当該相続財産は原則としてこれらの遺産分割手続を通じて各相続人に分割されることとなります。

遺産分割を巡る諸問題

遺産分割を巡っては法的な問題から感情的な対立まで様々な問題が生じ得ますが、以下では実務上問題となることが多い点を取り上げて紹介します。

1.特別受益

特別受益」とは、一部の相続人が被相続人から贈与や遺贈などによって受け取った特別な利益のことをいいます。例えば、一部の相続人が、被相続人の生前に、被相続人から居住用の不動産を購入してもらっていた場合には、当該不動産の価値が特別受益に該当しうることになります。

 

特別受益に該当する贈与等がある場合には、次の計算方法により各相続人の相続分が算定されます。なお、特別受益の額は、原則として相続開始時点を基準として評価されます。

特別受益を受けた相続人の相続分の計算方法 法定相続分×(相続財産+特別受益額)-特別受益額=相続分 特別受益を受けていない相続人の相続分の計算方法 法定相続分×(相続財産+特別受益額)-特別受益額=相続分

例えば、相続財産が1000万円、相続人が妻・長男・次男の3名で、長男が被相続人から生前に評価額100万円の株式の贈与を受けていたところ、相続開始時点では当該株式の評価額が200万円に上昇していたとします。この事例で、特別受益を考慮しない場合の各相続人の相続分は、妻が1000万円×2分の1で500万円、長男・次男がそれぞれ1000万円×4分の1で250万円となります。

 

これに対して、特別受益を考慮した場合は、相続財産1000万円に長男が生前贈与を受けた株式の相続開始時点の評価額200万円を加えた額1200万円が相続財産とみなされますので、各相続人の相続分は、妻が1200万円×2分の1で600万円、次男が1200万円×4分の1で300万円、長男が1200万円×4分の1-200万円で100万円となります。

相続人 特別受益を考慮しない場合 特別受益を考慮する場合 差額
500万円 600万円 +100万円
長男 250万円 100万円 -150万円
次男 250万円 300万円 +50万円

このように、仮にある相続人が特別受益に該当する贈与等を受けている場合には、その他の共同相続人の具体的相続分が増加することになりますので、特別受益の有無やその額について、相続人間で強く争われ、遺産分割の紛争が長期化する大きな一因となっています。

特別受益該当性の判断は困難な場合も多く、また立証困難な特別受益の主張は無為に紛争の長期化を招くことにもなりかねませんので、特別受益に該当し得る事実があったと疑われる場合には、専門家である弁護士にその見通しについて事前に相談するのが好ましいといえます。

2.寄与分

寄与分」とは、相続財産の維持又は増加に特別の貢献をした相続人に、法定相続分に加えて、その貢献に応じて相続人間の協議等によって定めた額を与える制度をいいます。例えば、被相続人が経営する事業に対し資金援助を行っていた場合や、被相続人に対し特別な貢献といえる程度の療養看護を行っていた場合に、これらを行った相続人に寄与分が認められる場合があります。

寄与分は遺産分割調停の中で請求することもできますが、これが叶わない場合には寄与分を定める処分調停の申立て、審判を遺産分割とは別途行う必要があります。

寄与分が認められた場合には、次の計算方法により各相続人の相続分が算定されます。

寄与分がある相続人の相続分の計算方法 法定相続分×(相続財産-寄与分)+寄与分=相続分 寄与分がない相続人の相続分の計算方法 法定相続分×(相続財産-寄与分)=相続分

例えば、相続財産が1000万円、相続人が妻・長男・次男の3名で、長男の寄与分が200万円あるとします。
この事例で、寄与分を考慮しない場合の各相続人の相続分は、妻が1000万円×2分の1で500万円、長男・次男がそれぞれ1000万円×4分の1で250万円となります。

これに対して、寄与分を考慮した場合は、相続財産1000万円に長男の寄与分200万円を控除した額800万円が相続財産とみなされますので、各相続人の相続分は、妻が800万円×2分の1で400万円、次男が800万円×4分の1で200万円、長男が800万円×4分の1+200万円で400万円となります。

相続人 寄与分を考慮しない場合 寄与分を考慮する場合 差額
500万円 400万円 -100万円
長男 250万円 400万円 +150万円
次男 250万円 200万円 -50万円

このように、仮にある相続人に寄与分が認められた場合には、特別受益と同様に各人の具体的相続分が変動することになりますので、寄与分の有無及びその額についても、相続人間で強く争われる傾向にあります。

寄与分が認められるためには、単なる扶養義務の範囲を超えた特別な寄与が認められる必要があり、その寄与を評価する明確な基準も存在しません。そのため、寄与分についての効果的な主張立証を行うためには、遺産分割実務に慣れ親しんだ弁護士に依頼することが肝要となります。

3.特別の寄与の制度

特別の寄与の制度とは、平成30年相続法改正によって新たに定められた制度で、相続人ではない親族(相続人を除く6親等内の血族と3親等内の姻族)が被相続人の相続財産の維持又は増加について特別に貢献したと認められる場合には、当該親族が、相続人に対して、前述した「寄与分」に相当する特別寄与料を請求することができる制度をいいます(施行日:令和元年7月1日)。

例えば、被相続人の亡長男の妻が長年被相続人の介護を行ってきた場合、従前の寄与分制度では相続人ではない妻は、相続財産の分配にあずかることができませんでしたが、本制度施行後の相続においては、当該妻が、相続人に対して、金銭の請求をすることができるようになりました。

特別寄与料の請求期限は、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6ヶ月を経過したとき、又は相続開始の時から1年を経過したときまでで、特別寄与料の額は相続人との間の協議により定め、当該協議が調わないとき又は協議をすることができないときは、特別寄与者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができます。

特別寄与料をどのようにして算出すればよいか分からない場合や、協議が調わない場合、家庭裁判所に処分を請求する場合等は、弁護士に相談することをお勧めします。

4.遺産分割の前提問題(相続人の範囲、遺言書等の効力・解釈、相続財産の範囲等の問題)

遺産分割の前提問題とは、遺産分割手続を進めるに当たって事前に解決しておかなければならない問題をいい、相続人の範囲、遺言書や遺産分割協議書の効力・解釈、相続財産の範囲などが挙げられます。

遺産分割の前提問題が発生した場合には、これを終局的に解決するためには、遺産確認の訴えや遺言無効確認の訴え、遺産分割無効確認の訴え等の各種訴訟手続を採る必要があり、これが解決するまでの間は遺産分割手続自体が事実上停止しますので、遺産分割事件の長期化を招く大きな一因となっています。

このように遺産分割の前提問題に争いがある場合には、これを適切に判断・処理することのできる争訟に精通した弁護士のアドバイス・関与が必須といえます。

5.遺産分割に付随する問題(使途不明金、遺産管理費用、法定果実の帰属、葬儀費用等の問題)

遺産分割に付随する問題として実務上多く見受けられるものは、使途不明金に関する問題、相続開始後の遺産管理費用や遺産から生じる賃料等の法定果実の帰属に関する問題、葬儀費用の問題、同族会社の経営権を巡る問題などが挙げられます。

遺産分割に付随する問題は、そもそも遺産分割の対象となるものではありませんので、相続人間で遺産分割の対象とすること、あるいは遺産分割手続の中で併せて解決することにつき合意が得られない場合には、遺産分割手続とは別途、訴訟手続等によって解決を図る必要があります。

このような遺産分割に付随する問題に争いがある場合には、これを適切に判断・処理することのできる争訟に精通した弁護士のアドバイス・関与が必須といえます。

6.相続財産の評価を巡る問題(非上場株式、不動産等の評価)

遺産分割手続を進めるに当たって避けては通れない問題が相続財産の評価を巡る問題です。

相続財産が預貯金や市場価格のある上場株式のみである場合には、評価を巡って争われることは少ないですが、相続財産の中に市場価格のない非上場会社の株式や不動産、借地権などが存在する場合には、その評価を巡って相続人間で熾烈な対立が生じることが多いといえます。

評価に争いのある財産を取得しようとする相続人は、当該財産の評価額をできるだけ低く主張しようとし、逆に当該財産を取得しない相続人は、当該財産の評価額をできるだけ高く主張しようとしますので、当事者間の主張の開きが大きくなるのが通例です。

そして、不動産や株式の評価方法には様々な手法があり、専門的知見に基づく算定が必須であって、公認会計士や不動産鑑定士による鑑定が必要となることもあります。遺産分割における相続財産の評価基準時は、原則として遺産分割時点と解されていますので、場合によっては、遺産分割手続が長期化することによって、複数回、相続財産評価のための鑑定が必要となることもあり、無駄にコストがかかってしまいます。

そのため、相続人間で相続財産の評価額の主張について大きな開きがある場合には、他士業との連携が容易で、時機に応じた効果的な評価額の主張をすることが可能な弁護士に依頼することをお勧めします。

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