会社内部紛争(類型II)

会社内部紛争には、役員報酬等を巡る紛争、取締役の地位・解任を巡る紛争、役員の責任を巡る紛争、経営権獲得を巡る紛争、株主権の帰属を巡る紛争など様々なものがありますが、対立する当事者によって整理すると、取締役(元取締役も含みます。)と会社との間の紛争(類型Ⅰ)、株主と会社(現経営陣)との間の紛争(類型Ⅱ)、株主と取締役との間の紛争(類型Ⅲ)、株主と株主との間の紛争(類型Ⅳ)の4類型に分けることができます。

なお、上記4類型により厳密に分類することが困難な複数の当事者が関係する類型の紛争もあり、所有と経営が一致しているいわゆる同族会社においては、株主が取締役を兼ねている場合も多く、あらゆる内部紛争の実態は、株主間の対立(類型Ⅳ)の様相を呈している場合も多いかと思料されますが、本項では便宜上、各紛争において特に利害関係の強い者同士を取り上げ、上記4類型に分類して会社内部紛争について説明します。

2.株主対会社(現経営陣)(類型Ⅱ)

株主対会社の構図を取る紛争類型は、大きく分けて経営権獲得(支配権維持)のための紛争と会社運営の適法性・妥当性確保のための紛争が挙げられます。

(1) 経営権獲得(支配権維持)を巡る紛争

経営権獲得のための紛争には、現経営陣の解任を巡って生じる紛争と、スクイーズ・アウトを巡って生じる紛争、募集株式発行等を巡って生じる紛争などがあります。

ア 解任を巡る紛争

株主はいつでも株主総会の普通決議によって取締役を解任することができます。

そのため現経営陣と対立する株主が50%を上回る議決権を有する大株主である場合には、現経営陣と株主との経営権を巡る紛争は、現経営陣の解任と大株主の意向に沿う取締役の選任によって解決できる場合が多いといえます。

また、前述したとおり解任に「正当な理由」がない場合には会社は取締役に対し損害賠償責任を負担することになりますので(類型Ⅰ)、定款の取締役の員数規定に反しない限りで、解任を避け、大株主の意向に沿う取締役が過半数となるように取締役を新たに選任することで解決を図ることも考えられます。

なお、取締役の解任に関しては、定款によって決議要件を加重している会社も見受けられるため、解任に係る株主総会決議を意図する株主は、事前に定款を確認しておくことが必要です。株主には「定款閲覧交付等請求権」が認められており、会社の営業時間内はいつでも定款の閲覧又は交付を請求することができ、会社がこれに応じない場合には訴訟によって定款の閲覧交付を求めることもできます。

大株主と対立する現経営陣が、自らの解任や現経営陣の意向に反する新たな取締役の選任を株主総会の議題として自発的に掲げることは通常はないと考えられますので、株主が取締役の解任ないし選任決議に至るまでには、通常以下のいずれかの方策を採る必要があります。

まず一つ目は、定時株主総会において解任ないし選任の決議を行う場合です。

かかる場合には、取締役会設置会社においては、株主総会は、招集通知に記載された事項以外の事項については決議することができませんので、解任決議を意図する株主は、株主総会の8週間前(これを下回る期間を定款で定めることもできます。)までに「株主提案権(議題提案権)」を行使し、意図する議題(取締役の解任ないし選任)を決議事項として掲げるよう提案する必要があります。ただし、定時株主総会において取締役の任期満了等により新たな取締役の選任が議題として上程されている場合には、当該株主総会において「株主提案権(議案提案権)」を行使することで、大株主の意図する取締役を新たに選任することも可能です。

なお、取締役会設置会社では、議題提案権は、総株主の議決権の100分の1(これを下回る割合を定款で定めることもできます。)以上の議決権または300個(これを下回る数を定款で定めることもできます。)以上の議決権を6か月(これを下回る期間を定款で定めることもできます。また非公開会社においては保有期間の制限はありません。)保有している株主に限って行使することが認められている少数株主権とされていますので注意が必要です。

二つ目は、取締役を解任するにあたって定時株主総会まで待てない場合や、そもそも現経営陣が株主総会を開催しようとしない場合です。かかる場合には、株主による株主総会招集請求を行う必要があります。

株主総会招集請求権」は、総株主の議決権の100分の3(これを下回る割合を定款で定めることもできます。)以上の議決権を6ヶ月(これを下回る期間を定款で定めることもできます。また非公開会社においては保有期間の制限はありません。)前から引き続き有する株主が、議題と招集の理由を示して行使することができます。

そして、招集請求に会社が応じない場合には、最終的には裁判所の許可を得て株主自身が株主総会を招集することとなります。かかる場合には、証拠保全、ないし違法行為抑止の観点から、会社ないし株主から、「総会検査役選任の申立て」がなされることもあります。

株主が主導して、株主総会において意図する議題・議案を決議するためには、以上のような各種法的手続が必要となりますので、株主総会の運営に通暁した弁護士に相談の上、実行することをお勧めします。

イ スクイーズ・アウトを巡る紛争

スクイーズ・アウトを巡っては、締め出される株主が、会社に対して、その手続上の瑕疵や内容を争って差止請求権を行使し、その効力発生後においては、その効力を争うための各種訴えを提起し、あるいは買取価格を巡って争われることとなります。スクイーズ・アウトのスキームの内、特別支配株主による株式等売渡請求については、特別支配株主と他の株主間で争われることとなりますので、類型Ⅳの「特別支配株主による株式等売渡請求」をご参照下さい。また、スクイーズ・アウトの詳細は、「スクイーズ・アウト」をご確認下さい。

ウ 募集株式の発行等を巡る紛争

募集株式の発行等を巡っては、株主が、会社に対して募集株式の発行等の手続上の瑕疵や内容を争って差止請求権を行使し、あるいはその効力発生後においては、各種無効の訴えや不存在確認の訴えを提起して効力が争われることとなります。手続の詳細については、「募集株式の発行等」をご確認下さい。

(ア)募集株式発行等の差止め

会社法上、株主には、「募集株式の発行等の差止請求権」が認められており、募集株式の発行等が①法令又は定款に違反する場合や、②著しく不公正な方法による発行等の場合において、当該発行等によって株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、会社に対して、募集株式の発行等をやめることを請求することができます(会210)。

①法令または定款に違反する場合には、取締役会又は株主総会の決議を欠く場合や、株主割当ての通知を欠く場合、定款に定めのない種類株式の発行を行う場合などがありますが、取締役等の善管注意義務違反はこれに含まれないと解されています。

また②著しく不公正な方法により行われる場合とは、取締役の支配的地位の強化のため関係者に不当に多数の株式を割当て、あるいは資金的需要がないのに募集株式を発行等して、特定の株主の持株比率の低下を意図する場合などが含まれ、取締役の善管注意義務違反のような抽象的な法規に違反する場合を指すと解されています。

ところで差止請求権は、募集株式の発行等を事前に差し止めるものですので、効力が生じる前(出資の履行前)に権利を行使しなければなりませんが、差止請求訴訟を提起して、この確定をまっていては募集株式の発行等の効力が生じてしまうため、実行性がありません。そこで、通常は、差止請求仮処分が申立てられ、当該保全手続の中で差止請求の可否が争われることとなります。

募集株式等発行の事実を株主が知る機会は、公開会社であれば払込期日または払込期間の初日の2週間前までになされる株主に対する募集事項等の通知・公告などにより、また取締役会設置会社である非公開会社では、募集事項等を決定する株主総会の招集通知に目的事項が記載され、株主総会において開示されますので、これらを端緒として株主は、募集株式の発行等が行われることを把握することができます。

もっとも、取締役会非設置会社の非公開会社においては、株主総会の招集通知に目的事項を記載する必要がなく、株主総会の議場にて動議を提出することもできますので、株主総会を欠席する株主は募集事項等を知る機会がないということもあり得るため注意を要します。

(イ)募集株式発行等の無効の訴え、同不存在確認の訴え

募集株式発行等の手続や内容に瑕疵が存在したとしても法的安定性の観点から当然には無効とはならず、「新株発行無効の訴え」や「自己株式処分無効の訴え」によって、その効力を争うこととされています。

当該核訴えは、非公開会社では効力発生日から1年以内(公開会社では6か月以内)に会社を相手にして、会社の本店所在地を管轄する裁判所に提起しなければなりません。

無効原因としては、定款に定めのない種類の株式の発行等、募集事項の通知・公告を欠くなど株主に差止請求権行使の機会が与えられていない発行等、募集株式発行等の差止仮処分を無視した発行等などがあたると解されています。

以上に対して、「新株発行不存在確認の訴え」や「自己株式処分不存在確認の訴え」は、資本金が増加した一応の外観は存在するが、払込みが実際になされていないなど新株発行等の事実自体が存在しない場合などに認められる訴えで、提訴期間に制限はありません。

(2) 会社運営の適法性・妥当性確保のための紛争

ア 株主総会決議不存在確認、同無効確認、同取消の訴え

株主総会の瑕疵を争う方法としては、株主総会決議不存在確認の訴え、株主総会決議無効確認の訴え、株主総会決議取消の訴えの3種類があります。

(ア)株主総会決議不存在確認の訴え

株主総会決議不存在確認の訴え」は、株主総会決議が事実として存在していないにもかかわらず、これが存在するかのような外観がある場合や、多数の株主に株主総会招集通知がなされていない等、法的に株主総会が存在すると評価できないような事情がある場合に、訴えをもって株主総会決議の不存在を確認する手続をいいます。

株主総会決議の不存在は、わざわざ訴えを提起しなくとも主張することができますが、当該決議の不存在を対世的に確定させることで紛争の抜本的解決が図れる場合には、同不存在確認の訴えを提起することが好ましいといえます。

(イ)株主総会決議無効確認の訴え

株主総会決議無効確認の訴え」は、決議の内容が法令に違反する場合に、訴えをもって株主総会決議の無効を確認する手続をいいます。

法令に違反する場合とは、例えば財源規制に反する剰余金配当決議、自己株式取得決議などの各種決議や、取締役会設置会社における総会決議事項に属さない決議、株主平等の原則に反する決議などがあげられます。

株主総会決議不存在と同様に、決議の無効は訴えを提起しなくとも主張することができますが、同決議の無効を対世的に確定させることで紛争の抜本的解決が図れる場合には、同無効確認の訴えを提起することが好ましいといえます。

(ウ)株主総会決議取消しの訴え

株主総会取消しの訴え」は、

  • ①株主総会の招集手続又は決議の方法が法令・定款に違反し、または著しく不公正な場合
  • ②決議の内容が定款に違反する場合
  • ③決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって著しく不当な決議がなされた場合
に、株主総会決議の日から3か月以内に訴えをもって当該決議を取り消すことのできる手続をいいます。

①招集手続の法令違反としては、一部の株主に対する招集通知もれや、招集通知への必要的記載事項の欠缺などがあり、決議方法の法令違反としては取締役の説明義務違反や取締役会設置会社が招集通知に記載のない事項を決議した場合などが挙げられます。また、招集手続の著しい不公正としては、例年とは異なって株主が参加しづらい日時・場所に招集した場合が、決議方法の著しい不公正としては、株主に質疑の機会を与えないまま決議した場合などが挙げられます。

また、②決議の内容が定款に違反する場合とは、定款所定の員数を超える取締役を選任した場合などがあります。

③「特別の利害関係を有する者」とは、問題となる議案の成立によりほかの株主と共通しない特殊な利益を獲得し、もしくは不利益を免れる株主をいい、当該人物が議決権を行使したことにより「著しく不当な決議がなされた場合」には、取締役兼株主が、当該取締役の責任免除に係る株主総会決議において議決権を行使した場合などがあたり得ます。

なお、株主総会決議取消しの訴えの内、招集手続又は決議の方法が法令・定款に違反することを理由とするものについては、裁判所は、その違反する事実が重大ではなく、かつ決議に影響を及ぼさないものであると認めるときには、請求を棄却することができます(裁量棄却)。

以上みてきたように、株主総会決議の効力を争う訴えは3種類用意されており、各訴え毎に要件は異なっており、特に決議取消しの訴えは、株主総会決議の日から3か月以内という短期間に訴えを提起しなければならず、また出訴期間経過後に新たな取消事由を追加することはできないと解されていますので、事案に応じて適切な時期に適切な訴えを提起する必要があります。

そのため、株主としては、株主総会決議に瑕疵があると考える場合には、当該決議後直ぐに弁護士に相談することが肝要です。

また、株主総会の瑕疵は、その内容によっては以降の株主総会決議にも波及し、紛争が長期化する傾向にあり、無駄な各種コストを要することになりかねません。

そのため、会社側としては、瑕疵なく手続を履践し、株主総会を運営することが肝要で、重要な株主総会決議を行う際には、弁護士の監修の下手続きを進めるのが好ましいといえます。

イ 総会検査役選任の申立て

総会検査役選任の申立て」とは、総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除きます。)の議決権の1%以上(これを下回る割合を定款で定めることも可能です。)の議決権を有する株主又は会社自身が、株主総会開催前に、裁判所に総会検査役の選任を申し立てるものです。

総会検査役」とは、株主総会の招集手続及び決議方法を調査するために裁判所によって選任される機関です。総会検査役が選任されると、株主総会の招集手続から株主総会の開催まで検査役が参加し、ビデオ等で録画することになります。そして、その結果検査役による報告書が作成されます。

総会検査役の選任には、違法行為抑止機能と証拠保全機能の二つの効果があると考えられており、重要な株主総会が開催される場合には、後日の紛争に備え、同申立てがなされることがあります。

ウ 各種情報収集手段

株主が、会社運営の適法性・妥当性を確認するためなどに、会社内部の情報を入手する方法として、会社法上、業務執行検査役選任申立てによって検査役作成の報告書を得る方法や、定款の閲覧・謄本又は抄本の交付等請求、株主名簿閲覧謄写請求、株主総会議事録閲覧謄写請求、取締役会議事録閲覧謄写請求(ただし、監査役設置会社、監査等委員会設置会社、指名等委員会設置会社の場合には裁判所の許可が必要)、会計帳簿等閲覧謄写請求、計算書類等の閲覧・謄本又は正本の交付等請求などが用意されています。

なお、各種閲覧謄写ないし交付請求権を親会社社員が行使しようとする場合には裁判所の許可が必要とされています。

以上の各手段は、実務上、各種紛争に先だって、又は各種紛争に付随して株主から権利行使されることが多いといえます。

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